おバカ社員奮闘記 よもやま話⑤

組合設立のいきさつ

会社に「社員会準備室」というものが出来ました。社員が声を上げて組合創設に
動いたわけではなく、たぶん組合もない会社では格好がつかない、と社長が発案した
ものでしょう。経営者が作る組合など御用組合にすぎない、と準備委員長に指名された
本社販売部業務担当のHさんに私は嫌味を言いました。


本社ではHさんを中心に何人かのマネージャーが集まり、組合設立のための準備を
していたようですが、現場マネージャーの私はまったく関知していませんでした。
Hさんは千葉の販売部の先輩で親しくさせてもらっていましたが、私は毎週水曜日の
営業会議に本社に行くだけなので、どんなふうに話が進んでいるかHさんからも
聞かされていませんでした。


私は地区長の仕事が超多忙で「組合」について考える時間的余裕はありませんでした。
私自身は管理職で、出勤時間も退社時間も休日も自由に決められる立場にありました
から、自分が組合員になるとは思っていませんでした。

えっ?なんで俺が!?

 


水曜日は午前中の営業会議が終わると、午後から販売部長と関東の地区長が出席する
「販売部会議」が行われていました。しかしそれはK部長が他愛のないことを子分の
地区長に命令するだけの無駄な時間だったので、私は外せない用件があったときには
欠席していました。その日も午後に、ある店の改装打ち合わせがあり、西友の店長、
課長に会うことになっていたため、午後の会議には出ず地区に戻りました。


いくつかの仕事を片づけて、6時過ぎに西千葉の事務所に戻ると、K役員から電話が
入りました。「社員会なんだけど、お前が委員長になったから」「えっ?何の話ですか?」
「だから午後の会議であんたが委員長に選ばれたの」「そんなバカな!俺は出席してないん
ですよ?それに俺は管理職じゃないですか!組合員の資格はどうなっているんですか?」
「いいから、じゃ、頼んだよ」
私が不在の中、関東の地区長と本社のマネージャーで話し合い、誰かが私を推薦して、
結局、私を初代委員長に決めたようでした。
あきれてモノが言えませんでした。社長以下役員が出席する営業会議で、いつも現場の
問題点を遠慮なく発言するアイツなら、こんな面倒な役割に丁度いい、とでも考えたのでしょうか。

聞いてみたけど、、、。

翌週、本社に行ったとき、K役員、N常務、H先輩に「組合」について聞いてみました。
分かったことは部長以下は非組合員で、マネージャー以下全社員を組合員にする、と想定している、
ということだけでした。メンバーは委員長の私が決まっているだけで、他の役員は私に自分で探せ、
つまり何も決まっていない状態だということがわかりました。


これはえらいことになった、地区長として現状の私は殺人的な多忙の中、組合の委員長までできる
わけがありません。N常務には、とても無理だから絶対にやれというのなら、地区長を外れて専従に
してほしい、と言いましたが、そこまでは考えていない、と断られました。また、マネージャークラスの
何人かに役員の就任を打診しましたが、皆、体よく断られてしましました。

とりあえず聞いてみよう


色々考えて、まず、今、社員のみんながどう考えているのか確認してみよう、と思いました。
社員名簿をもとに、北海道から九州まで、西千葉店のスタッフに手伝ってもらい、アンケート用紙を
発送しました。質問は「会社について不満はありますか?」「会社の問題点は何だと思いますか?」
自由に書いてください、と書き添えて仲間たちの考えを知ろうと思いました。
しばらくして、毎日2通3通と返送されてきました。

これは手に負えない、、、。

百数十通出して約50通弱の回答がありました。返答しなかった人は会社に不満がない?人もいたでしょう。
私が何者かわからずためらった方もいたと思います。それでも返送されてきた用紙には、かなり深刻な内容が
ありました。会社で行われている不正を書いてきた人もいました。
これはとても自分の手には負えない、私は親会社の西友の労組に相談しました。幹部の人は「内容は秘密に
するから、こちらに送ってほしい、その上で組合をどう作っていくか一緒に考えよう」と言ってくれました。
私はその言葉を信じ、名前を黒く塗ったコピーを送付しました。

痛恨の決着


西友労組にアンケート用紙を発送したのち、先方からは何の連絡もありませんでした。私も多忙の中、
このことに関わっている時間がなく、そのままになってしまいました。
するとある日、会社を「告発」した者の犯人捜しをしている、と本社のある人から情報が寄せられました。
まさか、用紙の内容が経営側に知られている?背筋が凍る話でした。自分なりに色々探ってみると、
どうやら西友から転籍してきたXという男が西友労組に通じていて、彼が社長に本部社員からの「告発」
を流しているようでした。Xは元労組幹部であり、当社に来て何の仕事をしているか、よくわからない
人物でした。
犯人捜しは本社の有能な女子社員であると特定され、追及された彼女は退社してしまいました。


私の失態で1人の大切な社員を退社に追いやってしまったのです。その無念の気持ちは今でも決して
忘れることはできません。


後日、社長宛に委員長就任を断る手紙を出し、同時に労組結成の話は消えてしまいました。