おバカ社員奮闘記5 北習志野店 後編

●七五三・成人式催事に挑む!

七五三の撮影催事はおもに大型店で開催されていました。当地区では新北習志野店の西友衣料品課が貸衣装と写真撮影のパックをN社を入れて実施していました。私は写真撮影を当社に担当させてもらえないかと春から西友の店長にお願いしていました。新北習志野店に行くと必ず事務所に顔を出し、店長、課長にしつこく頼みました。西友の内部の問題はN社に全てまかせれば、衣裳も写真も衣料品課の売上になりますが、当社が写真を担当すると写真は家庭用品課の売上になってしまいます。新北習志野店のカメラ売場は1階入口横にあり、1階は衣料品フロアでした。衣料品の課長にも必ず挨拶するようにしていましたが、いつもイヤな顔をされてました。

ある日売場でパートさんと話をしていると、家庭用品課長がきて、「フォートさんにやってもらうよ」と言ってきました。ありがとうございます、お礼を言ってS部長と本社商品部に連絡をしました。予約注文は夏から衣裳を陳列しているN社にお願いして、ヘアメイク、着付けの終わった子供と家族を地下バックヤードの特設スタジオに案内して、本社から派遣されてきたプロカメラマンに写真を撮ってもらいます。七五三催事が開催されている11月の1週間は私と、となりの北習志野店、高根台店のスタッフが応援に入り、受付、会計、案内、スタジオ助手と皆んなで手分けして実施しました。女性スタッフはいつもの制服ではなく私物のスーツを着てもらいました。この経験で七五三のノウハウを得ることができました。

来年は北習志野店でもやりたい、私は西友のK担当課長に相談しました。衣装と写真のフルパック、衣裳の展示は1階入り口とJUJU広場で行ない撮影は3階の家庭用品フロアの一部を借りて行いたい。衣装も写真もコミの価格設定をして、売上は短期消化(催事業者が売上を計上する方法)で家庭用品の売上にする。「じゃあ企画書、書いてよ」K課長に指示され企画書を作り、西友と当社本部に提出しました。I店長は「いいよ、やってよ」とこころ良くOKしてくれました。1階食品フロアは賑わっているのに2階衣料品3階家庭用品がいつも不振だったこともあると思います。逆に本社からはとなりの新北習志野店ですでに実施していることから、反対されましたが、必ず成功させます、と私が押し切り了承を得ました。

本社の支援をうけ貸衣装業者はE社に決定し、着付けヘアメイクはE社と取引のある美容師のKさんに決まりました。折り込みチラシはE社と折半して入れ、9月から週3日ペースでJUJU広場で衣装の展示会を開催しました。もちろん売場スタッフはフル回転です。

初回ということで目標は控えめの20件、しかしそれを上回る30件の予約が取れました。11月当日は新北習志野店と北習志野店でスタッフを分け、高根台店や地区の正社員にも応援してもらい、多少のドタバタはありましたが、無事終えることが出来ました。一番の功労者はママさん女性スタッフです。子供扱いに慣れているので、グズる3歳児や、着物をいやがる子供をうまくあやして予定どおりに進行ができました。

はじめて自分で企画した七五三催事を成功できたことで、社内では七五三ほど一般的ではなかった成人式の撮影催事にも挑戦しました。場所は北習志野、新北習志野の両店。着物の用意やヘアメイクはご本人にまかせて、撮影して記念写真をおわたしするイベントです。本社は全店一律、写真2枚セット台紙つきで19,800円の価格設定を指示してきました。しかし私はそれに反対。一生に一度の成人式の写真です。全身、帯の写る後ろ姿、家族みんなで、と3枚の写真は必要です。本社にそう主張しましたが、決まったことだからと受け入れてもらえず、私は当地区2店舗のみ3枚セット29,800円で強行しました。結果は大当たりでした。前、後ろ、うなじ、家族と4ポーズ撮影する方もいらっしゃいました。新北習志野店が売上1位、北習志野店が2位で、本社での営業会議で3ポーズでの成功を好事例として報告しましたが、会社の方針に逆らって作った実績に社長も各部長も渋い顔をしていました。売上はNO1だが会社の和を乱す奴、私は本社にとって要注意人物でした。

おバカ、栄転をことわる

北習志野店に来て、そして地区長になり、私は地区の売上を順調に伸ばしていきました。そんなある日、O人事部長から電話があり、本社への異動の内示を受けました。仕事はSM担当。当社カメラ売場が入ってない西友の小型店=スーパーマーケットに売場をつくる開拓をする役目で新設されるポストだそうです。何の部署であれ、店の担当者が本社に転勤するというのは栄転だそうです。しかし私はその内示を断りました。地区の売上も利益ももっともっと上げられる自信があったし、地区長という仕事にやり甲斐を感じていたからです。また地区経営という視線で見るとまだやり残したことが多く、中途半端でした。ところが私が内示を断わったことで、本社では大騒ぎになりました。新設するSM担当というポストがS社長が発案した肝いりのポストだったこと、その仕事はぜひ私に任せたいと社長が私を指名したのだそうです。それを一地区長が断るという事態に人事や販売部は大あわてになりました。そんなことになっているとは全く知らず、私は高根台店の食事交代に入っていました。そこへなんとT取締役事業部長、K販売部門長、S販売部長のお歴々3人が来店したのです。「ちょっと飯でも食おうや」K部門長が言いました。パートさんが食事から戻ると、私を入れた4人で店の前の回転寿司店に入りました。約1時間、食事をしながら3人からの説得を受けました。けれど私の考えは変わりません。尊敬するプロパーのS部長には申し訳ない気持ちになりました。その数日後、閉店前にO人事部長が現れました。この人も私を理解してくれている本社の数少ないひとりです。O部長も私と同じく酒が飲めないということで、駅前の24時間営業のドーナツ屋に入りました。O部長は粘り強く朝の6時まで一晩中私を説得しようとしました。ですが頑として首を縦に振らない私に呆れ果て、あきらめて早朝に出社していきました。結局、私の内示は取り消され、Mさんというベテランがその職につきました。Mさんは一年間何もせず、1店舗も開拓できずSM担当というポストは消滅しました。「栄転」を断った私はますます仕事に力を入れて地区の売上を伸ばしました。───それが会社への1番の貢献であると信じて。

え?え?そんなのあり?

巡回から北習志野店に戻ると売場がザワザワしていました。若手のKさんが泣いていて、Kさん、Oさんがなぐさめています。事情を聞くとつり銭を渡した、もらってないで男の客と若手Kさんがやりあったというのです。レジのお金を確かめるよう指示していると、B管理課長がやって来ました。先ほどの客から事務所の代表電話に苦情を言って来たという、今すぐ家に来い!とそれは凄い剣幕だといいます。B課長と一緒に3階の事務所に行ってI店長と3人で対応策を協議しました。結局B課長と私がその男の自宅に行くことになり、2人で売場に寄るとレジの金は合っていると言います。Kさんは絶対に渡した、と泣きながら主張するし、まず因縁をつけられたのでしょう。しかしコトが西友を巻き込んでしまったのだからしょうがないです。店内の和菓子屋さんでB課長が菓子折を買い、男の自宅に向かいました。団地の1階の家に行くと、男はランニングシャツ姿で二の腕まで左右ともお花の模様が。おう、と言ってシャツを脱ぐと背中に天女の絵が描いてありました。刺青です。B課長と畳に正座すると男は日本刀を持ち出しました。「それでどうしてくれるんだ?」男が凄みます。初老のB課長は震える膝頭を力を入れた手でつかんでいました。私は不思議と冷静で「切れられたらすぐに警察沙汰だ」と男をみていました。絶対に金は渡さない。I店長との話で決めていました。「ご不快にさせて申し訳ございません」B課長と頭を下げ続けて、なんとか家から出られました。B課長は店長に報告し、事故報告書を作って本社に提出するそうです。私は上司のS部長に報告して、本社に連絡をしてもらいました。チーフから地区長に、数え切れないほどのクレーム処理をしてきましたが、日本刀をチラつかされたのはこれは最初で最後でした。いまならもちろん暴対法で一発逮捕の事例です。つり銭で因縁をつけ、金を取ろうなどというのは、ヤ〇ザでもチンピラ、小物だったのだと思います。対面接客販売の難しさを痛感した出来事でした。

夏にK部門長が来店しました。「お前の地区の店はN商店だな」カメラの在庫はなるべく少なく、そのかわり時計、電卓、万歩計や体温計、あげくの果てはスーパーファミコンやプレーステーションといったゲーム機やそのソフトまで取り扱って、全店売上1位の北習志野店などさしずめバラエティー・ショップでした。地区の他店も似たりよったりでK部門長は私の勝手な売上作りを許せなかったのでしょう。「9月から総武線と東西線を担当しろ」私は5年半いた北習志野店を出ることになりました。15年間の会社人生で最も長く在籍したのが北習志野店でした。多くの企画や催事をして売場のスタッフは他店の人の3倍も働いたと思います。新京成の3店舗は仲が良く、みんなでカラオケに行ったり、催事の後、スナックで打ち上げをしたりしました。無茶苦茶な私にみんなよくついてきてくれました。本当に感謝しかありません。今でも当時のスタッフとは付き合いがあり、年賀状のやり取りもしています。

次は店舗のチーフは兼務せず、完全な地区長として店舗運営することになりました。
───そう私は七五三催事のときに命の次に大切なシステム手帳を紛失しました。そのときみんなでお金を出し合って私に革表紙のシステム手帳をプレゼントしてくれました。いまでもその手帳は大切に使っています。