少年キングと古城武司

みんな不幸なマンガ

1974年(昭和49年)から週刊少年キングの購読をはじめた私でしたが、当時、少年キングには
2本の野球マンガが連載されていました。ひとつは神保史郎 原作、かざま鋭二 画の長編「おれの甲子園」、
もうひとつが梶原一騎 原作、古城武司 画の「おれとカネやん」でした。
この二つの野球マンガは対照的で、「おれの甲子園」は作者の情熱が暑苦しいくらいに感じられて、連載
途中からでは読むのが困難な作品でした。一方、「おれとカネやん」は原作の第一人者、梶原一騎の
分かりやすいセリフと古城武司の読みやすい絵で、スッと入っていけました。しかし毎号毎号読み進めて
いっても、どうも面白くありません。淡々と、どこかで読んだ?見た?ストーリーが展開されていきます。
読みやすい、けどつまらない。なのにいつも前の方のページで、カラーだったり、扉がカラーだったり、
なにか「特別扱い」されている作品のように感じました。「おれとカネやん」は先日ご逝去された、
金田正一監督のロッテ・オリオンズを舞台にした、「巨人の星」のようなマンガです。

購読していたある日、気づきました。「おれとカネやん」のオールカラーの扉の裏はロッテのガムの広告
だったのです。「おや?」と思ってキングをめくると表紙の裏や一番後ろのページにもロッテの広告が
載っていたのです。小学生ながら、大人の事情がある、と思いました。たくさん広告を出してくれる
お得意様の作品だから「カネやん」は優遇されてるんだ、「優遇」なんて言葉は知らなかったかもしれません。
編集部にヒイキされてるんだ、とわかりました。発行部数が5大少年誌最下位なのに、毎号、何ページも
カラー広告を入れてくれるロッテはキングにとって一番のスポンサーだったのです。
そうなると作品が面白いかどうかは関係ありません。主人公と金田監督が作品に出ていればそれでいいのです。

古城武司先生はこの作品について「安定した仕事ではあったけど、正直言って愛着を感じることはできない
作品でした。明らかに『巨人の星』の焼き直しでしたからね」「『おれとカネやん』なんて完全に雑炊ですよ」
と当時を振り返っています。梶原一騎さんは「名作」(巨人の星)を雑炊みたいに薄めた作品を書く。その
雑炊が「おれとカネやん」だと語っているのです。古城先生も気の毒ですが、一番不幸なのは私たち読者でした。
原作者にも作画家にも愛着を持たれない作品を読まされていたのですから。

少年画報社がホームタウン

 実は古城武司先生を知ったのは、もっと前でした。友達に見せてもらったのか、思い出せないのですが、
別冊少年キングの古城先生の作品を読んでいたのです。資料にあたると1971年(昭和46年)に
「にわか坊主 なんまいだ」(4月号)「やくざ坊主 『げんこつ説法』」(5月号)「やくざ坊主 成仏なされ」
(6月号)「ごろんぼ医者」(8月号)と執筆されていて、たしか90ページ読み切り、70ページ読み切り
という長編で、いずれも読んだ記憶があるのです。大ゴマが多く、ずいぶん乱暴なマンガという印象を
受けました。

古城先生は古くから少年キングに寄稿しており、一番最初は1965年(昭和40年)の「ホームラン太郎」でした。
以後、別冊少年キング、少年画報に多数の作品を寄せられていて、少年画報社は先生にとってホームタウンのひとつでした。

1975年、52号で「おれとカネやん」の連載を終えた古城先生は、翌76年4月18日号の少年キング
増刊KINGオリジナルに吉岡道夫原作で「ああ零戦」の連載を開始します。太平洋戦争やゼロ戦について事実に
できるだけ忠実に描かれたこの作品は先生いわく「『ああ零戦』はぼくとしても満足いってる作品のひとつで」
「とにかく満足した1作という印象があるね」と充実したという感想をお持ちのようです。実際、戦記マンガに
とくに興味のない私もとても面白かったことを憶えています。

「ああ零戦」が終わるとすぐに、今度はオリジナル(原作なし)で「エースは魔子」を77年4月より開始されますが、
同誌の休刊により、9月号で完結してしまいます。女の子が少年野球でエースピッチャーになるという、愉快な発想の
作品で、とても面白かったのですが、休刊での終了は残念でした。

古城武司先生は長編連載が「おれとカネやん」ほか少数ということもあり、不当に評価が低い漫画家です。
少女マンガからスタートして、スポーツ、動物、格闘技、そしてテレビのコミカライズとたいへん幅広い分野の
作品を描かれた方で、いまマンガファンに見直されているようです。

参考文献   週刊少年キング       (少年画報社)
       別冊少年キング       (少年画報社)
       増刊少年キングKINGオリジナル(少年画報社)
       少年画報大全        (少年画報社)
       梶原一騎 夕やけを見ていた男 斎藤貴男 著 (文藝春秋社)
       大懐漫王 第3号      (アップルBOXクリエート)
       ああ零戦(上・下)     (学習研究社)
       少年なつ漫王 18号    (アップルBOXクリエート)