おバカ社員奮闘記 地区長編⑨
アルム銚子店、開店ドタバタ記
「ちょっと、N」会議後K役員に呼び止められました。「なんですか?」「銚子に出すから」
「え?銚子?銚子って千葉の?あの海の?」「そう、カスミが新店を出すんだよ、そこ」
私は総武京成地区長ですが、千葉より下りは都賀店(千葉市)しかありません。
銚子は千葉から特急で約2時間、そんな遠い所を担当する自信はありません。
茨城県に本社のあるスーパーのカスミは北関東を中心に食品スーパーを展開していました。
今度、銚子松岸店をオープンすることになり、そのテナントとして当社が入ることになったのでした。
すでに地方の食品スーパー内に出店している北関東の担当地区長たちが、売上に苦しんでいる姿を
見ていましたから、「これは大変なことになったぞ」と思いました。図面を見ると20坪もあります。
私はK役員と何度もレイアウト図面のやり取りをして商品や陳列の修正をしていきました。
ミニラボを導入しての写真ショップのほか、フィルム、アルバム、フレーム、そして腕時計、目覚まし時計、
柱時計、電卓と当地区の扱い商品をすべて入れて売場を作ることにしました。
問題なのはスタッフです。これほど遠い店舗に通勤できる社員はいません。パート社員のスタッフを5人、
現地採用することになりました。採用したらそれで終わりではなく、全くの素人を教育しなければなりません。
本社にはそういう新店の教育部門は無く、地区のスタッフで仕事を教えることになります。私がその仕事を
するのはスケジュール的に不可能です。ミニラボのトレーニングはメーカーにしてもらい、売場の実地指導は
正社員のSさんに頼むことにしました。20坪の売場づくりはK役員のほか商品部のHさん、開発部のTさん、
企画のYさんSさんの応援を得て売場を作っていきました。「新店オープンスケジュール表」というのを販売部
が作っていましたが、なかなか予定通りにはいきませんでした。それでもなんとかオープンにこぎつけました。
アドバルーンの上がる開店の日、多数のお客様が来店され、オープニングセールは目標の2倍を売り上げました。
本社の仕事は店をオープンさせてしまえば終わりです。しかし全くの未経験者のスタッフをそのまま放置して
しまうわけにはいきません。スタッフもまだまだ分からないことが多いでしょうし、実際の教えなければならない
ことは山ほどあります。地区としては彼女たちがある程度仕事ができるようになるまでフォローしなければ
なりません。そこで1週間毎に正社員チーフのSさん、Hさん、Iさん、西千葉店のベテランスタッフYさんに
行ってもらうことにしました。もちろん販売部のK部長に交渉して特急の使用を認めてもらいました。
4人で1か月の促成栽培です。1か月の教育期間を終えたあとは地区長の私が巡回と電話で困りごとの相談に
乗りました。会社は次々と新店をオープンさせていますが、正社員チーフを配置しないという方針で、新店の
バックアップ体制は無いに等しい状態でした。社長の経営方針に本部の体制がまるっきり出来ていないというのが
現状でした。私は営業会議で厳しく指摘しましたが、社長は黙って聞いているだけで、会議終了後K部長に「余計な
こと言うんじゃねーよ!」と言われました。社長に様々な問題が届いていない、部長連中は社長に「大丈夫です、
大丈夫です!」とその場を繕うことしかしていないのでは?と想像しました。新店は開店初月から利益を出せ!
というのが社長の命令でした。次々に新店を出店している北関東の地区長は売上予算が全くいかず、利益を出すどころか
毎月大赤字で、会議で社長から時にバカ呼ばわりされ激しく叱責されていました。アルム銚子店は開店セールの
あった初月の売上が250万円、利益はわずか4万円でこのままでは不採算店になるのは目に見えていました。
私は銚子市内に5台の証明写真ボックスを開拓、設置して、その売上を銚子店に計上するようにしました。
姑息的な手段ですが、得意にしている店頭販売や催事が距離的な問題でできない中、利益を出すためには何でも手を
打とうと考えてのことでした。
銚子店では次々とトラブルが起きました。日曜日の夕方は地区各店から週刊売上がFAXで届き、それを私が集計して
夜には本社にFAXしていました。月曜朝の経営会議に必要だからです。西千葉店の事務所で次々に届くFAXの処理を
していると銚子店から緊急の電話が入りました。「写真の色が変なんです!」よく話を聞くとミニラボの補充液を
間違えて入れてしまったことがわかりました。そうなるとミニラボの薬品をすべて抜き、新液に入れ替える必要が
あります。日曜日ですから薬品会社は休みです。急遽、Sさんに銚子に飛んでもらい処理してくれるよう頼みました。
夜10時まで事務所に残り、それからはファミレスで待機してSさんが千葉に戻ったことを確認してから帰りました。
また、利益欲しさに携帯電話の販売を始めると、ヤ〇ザが来店してスタッフとトラブルになりました。女性スタッフ
が恐怖から私の携帯番号を教えたため、ヤ〇ザから何度も電話がかかってきて怒鳴りつけられたこともありました。
ベテランチーフを配置せず、入社したばかりの女性スタッフだけで店舗運営するというのは、どだい無理だったのです。
それでも銚子店のスタッフを交代で西千葉店に研修にきてもらったり、なんとかしようとわたしは必死でした。
1年後、リーダー的存在で私がいちばん信頼していたSさんが西千葉店にやってきて、自身のキャリアを身につけるため
鍼灸師の学校に入りたいので退社させてください、ということでした。それなら承諾するしかありません。
銚子店の売上は伸び悩み、ギリギリ利益が出る状態で、私が地区長を外れるまで、ずっと苦しんだ店舗でした。
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