おバカ社員奮闘記 地区長編⑧

初めての路面店開店

西友や西武のインショップだけでは店舗数の拡大はできません。そのため会社はグループ外の
スーパーなどへの出店を始めました。あわせて路面店といって、街の写真店の出店も開始しました。
錦糸町楽天地の1階の角が出店候補に挙がり、K役員に事前調査を命じられました。
1日、予定地の前に立ちハンドカウンターで通行人の数を数えたり、人の流れを観察しました。

役員への報告書を提出しましたが、ひとつ問題がありました。それはビル風が強いのです。
突風といってもいいほどの強さでした。

しばらくして役員から出店が決定したとの連絡がありました。さらに後日、
売場図面が送られてきました。おや?図面を見た私はもう一度図面を見直しました。おかしい、
入口に扉がなく開放状態だったのです。これは書き漏らしたのだと思い、本社に電話してK役員に
扉がありませんよ、と伝えました。

すると「いいんだ、それで」。私は耳を疑いました。
入口に扉がない店なんかあるのか?会議で本社に行ったとき、再度、役員に確認しました。

「うーん、コレが言ってんだから」役員は親指を立てました。親指のコレとはS社長を示しているのは、いくら
勘の悪い私でもわかりました。
「けど、あそこはすごい風ですよ、ミニラボはホコリで一発でダメになりますよ」

精密機械のミニラボはホコリを最も嫌います。「まあ、やってみようや」役員は
事の深刻さを理解していないようでした。一等地への出店とあって会社は草加店のベテランチーフ
Tさんを責任者にしてくれました。

開店前の準備のときに私が店に行くと、Tさん以下、新採用のスタ
ッフが突風と戦っていました。
カウンター上の伝票やチラシは吹き飛んでいってしまいます。
この場所は水道の設備がなくトイレもないなど、最悪の労働条件でした。

開店するとまず2台と証明写真ボックスが壊れました。
屋外用の自販機がこの風とホコリに耐えられなかったのです。

次は案の定ミニラボが壊れました。中の「人間」も髪はグチャグチャ、目にもホコリが入り目薬を
さす始末です。私は会社に扉をつけるよう強く要望しました。入口は開放がいちばんだ、という
社長の「ポリシー」で要望は退けられましたが、毎日ミニラボが故障していては商売になりません。
本社はようやく厚手のビニールスクリーンを付けました。こんな環境でも人通りの多さで店は
繁盛しました。写真の売上では地区トップです。しかしスタッフは定着しませんでした。当然です。
夏は暑さで冬は寒さで地獄のような店なのですから。上司の私の力不足でチーフのTさんは直接、会社
に文句を言うようになり、やがて異動になりました。こんなていたらくでは当社の路面店ビジネスは
間違いなく失敗する、私はつくづくそう思いました。
このアルム錦糸町店の出店を口火に、当地区も出店ラッシュに入りました。