「整備済みカメラ」とは何?
前社でエリアマネージャーとして店舗巡回していたとき、ある店でカメラ修理が出来ず、店のスタッフが
お客様にカメラを返却してお詫びしている場面に遭遇しました。
「本当に申し訳ございません」
「想い出のカメラだからなんとか直したかったんだよなぁ。」お客様は残念そうでした。
「最近、修理不能で戻ってくるカメラが多くて困っちゃう」スタッフのその言葉に「
あれ?そんなことあったかな?」と不思議に思いました。
事務所に戻って調べてみると、修理会社が複数の小規模修理店から大規模修理会社に統一されていました。
メーカー修理以外はすべてこの大会社に送られるようになっていたのです。私は府中物流センターに常駐
する修理担当のベテラン、Tマネージャーに電話をしてみました。
「いやあ、商品部が◯◯テクノと取引をはじめて、全部そこへ送るようになったんですよ」
Tマネージャーは電話口からも困惑した様子が伝わってきました。
「今度伺いますから修理について色々教えてください」
翌週の休日に府中センターに行ってTマネージャーに話を聞きました。
分かったことは、カメラ修理の専門性です。
ニコンならここ、ペンタックスならここ、とそれまで専門の修理会社に出していましたが、本社商品部の
意向で利益の大きい総合修理会社に出すようになったところ、難しい修理が出来なくなり返却の割合が増
えた、とのことでした。
私はTマネージャーから専門修理会社一覧のコピーをもらいました。各社ともまだ取引先コードが残って
おり、必要なら店舗から修理会社を指定して出すことが可能で、カメラ修理の多い大型店のチーフに事情
を説明してコピーを渡しました。
「病気になったらそれぞれ具合の悪い所の科に行くでしょ。腰が痛かったら整形外科に行くじゃない。
目の調子が悪かったら眼科でしょ。なんでも治せる医者はなんにも治らないんだよ」
Tマネージャーの言葉は心に残りました。
前社を辞め当店で働いて数年、中古カメラを扱うようになり、カメラ修理が増えました。そのとき役に立ったの
が「専門修理会社一覧」のコピーでした。取引をお願いして、また直せないカメラがあると、そのカメラの専門
家を紹介してもらいました。
多くの修理屋さんと話すようになって「修理業界」のことが分かってきました。
修理屋さんはとても専門性が高い仕事だということです。例えばニコンのカメラを修理する場合、ニコンの主催
するそのカメラの修理研修を受講して、メーカーからそのカメラの補修部品を卸してもらうということになり
ます。ニコンの修理認定店になるには多数のニコンカメラの研修を受ける必要ががあります。
そして「修理認定店」とはメーカー修理と同等の修理ができるというお墨付きをメーカーからもらう、という
ことです。
研修は札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡の大都市で行われ、修理屋さんは近い所の研修を受講します。
フィルムカメラ時代はそのメーカーから多数のカメラが販売されており、研修を受けるのも大変です。
そのため小規模な修理屋さんは「ニコン専門」「キヤノン専門」などと一メーカーを扱うことが多く、
少し規模の大きい所でも、「ニコン・キヤノン専門」など2社を扱うのがせいぜいでした。
かつて「一眼レフ5大メーカー」と呼ばれたニコン、キヤノン、ペンタックス、オリンパス、ミノルタは
すべてこの「認定店制度」を持っていて、自社のサービス部門でフォローできないカメラは、これら民間の
修理屋さんが補っていたのです。
5大メーカー以外でも、ヤシカ(京セラ)、コニカ、リコーがこのような修理研修を行なっていたそうです。
当店は中古カメラ屋としてお客様から預かったカメラをそれぞれの専門修理会社に出すようになりました。
フィルムカメラはもちろんメーカーの修理対応期間が終了しています。しかし民間の修理屋さんはまだ部品を
持っているケースがあり、直せることがあったのです。
これらの経験はカメラ屋として、修理取次店として大いに役に立ちましたま。
当店が街の写真店から中古カメラを扱うようになったとき、まず考えたのは「安く売りたい」ということでした。
商店街から離れ決して便利とは言えない立地であることから、少しでも安くカメラを売って他店との差別化をはかりたい、
と考えたのです。
そのため買い取ったカメラを電池とフィルムを入れてテストし、正常であればよく磨いて店頭に出していました。
修理・整備はせず販売していたのです。
しかし売ったカメラが早々に故障したというお客様がポツポツ出るようになりました。返品・返金で対応していましたが、
これでは店の信用を失ってしまいます。そこでお客様のカメラ修理と同様に整備してから販売することにしました。
多くの修理屋さんは地方にあり、電話で協力を依頼しました。皆さん心よく引き受けてくださり、当店は整備済みの
カメラを販売するようになりました。
思えば30年、40年、50年、それ以上古いカメラを扱っているのです。何もしなければ不具合が出て当然でしょう。
カメラの販売価格は、買取額+整備費+利益です。整備しなければとても儲かる商売です。しかし原価に占める整備費の
割合が大きいと、売れなければ大損になってしまいます。そのため現在、多くのカメラ店がチェック、テストだけして
未整備のカメラを販売しています。しかしそれではせっかく店舗を構えて信用を得ていても、売っているカメラはメルカリ
やヤフオクで素人が出品しているものと同様ということになってしまいます。
整備済みカメラを販売しているお店は少ないようですが、せっかくお金を払うのならメンテナンスしているカメラを買われ
たほあがいいと思います。
けれどここで申し上げたいのは、「整備済みカメラ」は「新品」ではない、ということです。
数十年経った古いカメラの故障している部分を直して販売しているのが、「整備済みカメラ」なのです。
例えばここに中古のキヤノンnewF-1があるとします。壊れているのはメーターとシャッターです。
修理屋さんはこの2点を直し、各部をクリーニングして当店に納品します。壊れていない光学系や駆動部まで新品部品に
換えたらとんでもない金額になってしまいます。とても販売できる値段にはなりません。
ですから「整備済みカメラ」は「永久に使える(壊れない)カメラ」では無いということです。
たとえ新品でも機械であれば使っても使わなくてもいつかは壊れます。完全を求められても困るのです。
未整備品よりはるかに使いやすく安心して使ってもらえるカメラが「整備済みカメラ」ということになります。
また、できるだけカメラ趣味を楽しくするためには、馴染みの個人カメラ店と付き合っていくのが得策です。
チェーン店はみな「大規模修理会社」と取引しています。
先に申し上げたとおり、極論すればなんでも扱う修理会社は難しい修理は出来ない、ということです。
現在部品が供給されている現行デジカメは直せても、古いフィルムカメラの修理は絶望的です。そのためにも
小回りの利く小さなカメラ屋と馴染みになっていると、色々とお得なことが多いと思います。
当店も皆様のお力になれるよう、精進していきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
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