1975年の少年キング
●最下位なのに面白い
小学生の私が初めて買った少年週刊誌は「少年キング」でした。1974年(昭49年)のことです。マガジンでもサンデーでもジャンプでもチャンピオンでもなくて何故キングなのか?それがよく憶えていないのです。小学校のそばのI書店という小さな本屋さんで買ったのだと思います。最初に買った号は石井いさみの「四角い青空」の初回、「どぶネズミ」が巻頭カラーだったので、6・7合併号のようです。当時のキングは毎号必ず読み切りが掲載されていました。連載マンガを途中から読むというのは、なかなかハードルが高い。けれどギャグマンガや読み切りマンガ、1話完結のものが載っていればその雑誌に入りやすくなります。そんな理由で次、また次、と買うようになったのだと思います。実際74年のキングは面白かったのです。「ワイルド7」(望月三起也)「サイクル野郎」(荘司としお)「おれの甲子園」(神保史郎・かざま鋭二)「おれとカネやん」(梶原一騎・古城武司)「スタンバイK助」(梅本さちお)「3の3の3」(森田拳次)「ギャグギゲギョ」(赤塚不二夫)「タマオキくん」(よこたとくお)「ドッキリ仮面」(日大健児)「マンバカまん」(北見けんいち)というラインアップで読むごたえ十分でした。そこに「食べ物がなくなる」(ジョージ秋山)「オカルト勘平」(藤子不二雄)「紙の砦」(手塚治虫)などの珠玉の読み切りが入りますからたまりません。「元日の朝」「まりつき少女」(日野日出志)という不気味なマンガが掲載されたり、「スターダスト」(ジョージ秋山)のようなショッキングなマンガが始まったり。キングは刺激の強い雑誌だったのです。
●1975年、幸せなスタート
75年は「すきっ腹のブルース」(手塚治虫)「志摩供養」(神保史郎・かざま鋭二)という、うならせる読み切りでスタートします。(74年12月発売号)新年を迎えるといよいよ藤子不二雄のギャグマンガ「オヤジ坊太郎」が始まりました。次々に巨匠が登場して、これからキングはさらに面白くなりそうだぞ、と期待がふくらみました。ところが春を前にしてその期待は打ち破られ、混乱と失望に変わっていくのです。何故か?-それは連載マンガが次から次へと終わっていくのです。ストーリーマンガは「ワイルド7」「サイクル野郎」「おれとカネやん」をのぞく全作品。特に「四角い青春」など74年は1話完結のシリーズ読み切りでしたが、75年から毎週連載になったばかりなのに終了しました。ギャグマンガはすべて。長期連載だった「ドッキリ仮面」も終わりました。これまで親しんできた作品が片っ端から終わる絶望感と不安感。「いったいおれの少年キングはどうなってしまうのか…」ギャグマンガは終わりに近づくにつれ、作者の恨み節?が書かれ、ただ事では無い感じがヒシヒシと伝わりました。
1975年のスタート オールスター揃い踏み
待望の藤子不二雄新連載!いけるぞっ
●理解不能?破壊へまっしぐら
春休みを前に各誌とも新連載攻勢がスタートします。すべての連載マンガが無くなり、いかにも急ごしらえの読み切りで埋められていたキングも大々的に新連載予告が掲載されました。え?え?え?聞いたことの無いマンガ家ばっかり!それもそのはず、青年マンガ家が大挙して入ってきたのです。「うりこみや音吉」(はせがわほうせい)「いただき益」(神保史郎・やすだたく)「鬼やん」(青柳裕介)「北の一族」(草川隆・守谷哲巳)「はずれガキ道」(横山まさみち)「突撃バンバン」(ヨージ・福山)知っていたのは神保史郎先生。守谷哲巳先生は他誌で見たことが…。ほかのマンガ家や原作者は全く知りませんでした。けれど知らなくてもいいんです!面白ければ!ところがどれもつまらない!「鬼やん」だけは取っ付きづらい絵でしたが内容は良かった。しかしそれだけ。例えば「うりこみや音吉」は時代モノなのにテレビや家電が出てくる。ストーリーマンガなのかギャグマンガなのか分からない。「突撃バンバン」はギャグマンガなのに不気味なだけ。「がきデカ」のマネなのは分かりましたが。案の定、「鬼やん」をのぞいて始まったと思ったら次々に打ち切りになりました。マンガ以外も迷走ぶりが凄い!表紙は似顔絵になり、アイドルのポスターが付き、読み物が大幅に増えました。そんなの読みたくないのに!クラスでキングを購読しているのは私だけ。友達と感想も言い合えず、ただただ毎号お金を払ってつまらない本を見守るしかありませんでした。
横山まさみち十八番、どじよう。
うーん、わ、笑えない…
●やり直そう!…けどもう遅い?
人気が無いから打ち切る、つまらないから終わる。けど終えたからには何かを始めなければならない。「がっぷ力」(吉岡道夫・かざま鋭二)「銀河戦士アポロン」(雁屋哲・海堂りゅう)「心霊探偵オカルト団」(高円寺博・永井豪/石川賢)「仕掛の又一」(堀江卓)「狼よ!海を見たか」(佐々木守・百成たかし)…。いかんせん付け焼刃感は否めません。「がっぷ力」は良かったけどなぜか休載を繰り返す、「オカルト団」は永井豪を表紙までにしたのに(マンガ家のアップの顔イラスト)本人は描いていません。『この一作に入魂の巨匠!』といっても堀江卓って昔のマンガ家じゃない?面白いんだけど絵が異様に古かった。キングは必死の巻き返しをはかるも、人気マンガを全て打ち切ったダメージからはとうとう回復できないまま1975年は終わりました。あ、そうそう49号に神様・手塚治虫が「ずんべら」という少年探偵読み切りマンガを描きましたが、『ブラックジャックの薄味マンガ』くらいにしか思いませんでした。失意の少年キングは1976年から編集長を替えて出直します。
手塚治虫登場!
人気があればシリーズ化をもくろむ?
のちにアニメになったとか。
参考文献 週刊少年キング(少年画報社)
少年なつ漫王18(アップルBOXクリエート)
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