カメラ修理 こぼれ話①


Aさんは40代の女性です。お父様が遺されたカメラをどうしても修理してほしいと、
S県からいらっしゃいました。Aさんが子供のころお父様がよく撮ってくれた、という
そのカメラは「セルビー」という今はもう無いメーカーのコンパクトカメラでした。
プラスチックの簡素なそのカメラは、巻き上げができずシャッターも切れませんでした。
電池を入れてもストロボは通電せず、かなり難しい仕事になりそうでした。
Aさんも4件のカメラ屋さんに断られたそうです。


Aさんは父が使っていたこのカメラを、ぜひ使えるようにして写真を撮りたい。そして
撮った写真をお父様にお供えしたい、という希望をもってらっしゃいました。


なんとか力になりたい、そう思っていくつかの修理屋さんに聞いてみましたが、
「セルビーなんて知らない」「部品がないので直せない」という返事ばかりでした。
途方に暮れてしまいましたが、古いカメラを得意にしている修理屋さんが、
「直せるかどうか分からないけど送ってみてください」と言ってくれました。
藁にも縋るような思いで、発送しました。


一週間ほどして修理屋さんから「なんとかなりそうだ」と電話をもらいました。
シャッターと巻き上げの部品が壊れているので、工作機械で部品を作る、
ストロボはコンデンサがもうダメなので、形状の合う他社のコンデンサを使う、
ということでした。
修理代は15000円ほどになりそうです。このカメラが新品のときより、多分、
高い値段だと思います。


Aさんに電話でお知らせすると、その値段で結構ですからぜひ直してください、とのことでした。
約一か月後「セルビー」は完全に修理され返送されてきました。
もう一度、AさんはS県から来店されました。売場で私が動作テストをして、
買っていただいた電池とフィルムを入れ、テストで一枚、にっこりとほほ笑むAさんを
私が撮影しました。


その後、ご自分のお子さんの写真と、お父様の仕事場を撮影して、命日にカメラと写真を
お墓に供えられた、とご連絡をいただきました。
とてもうれしいご報告で、早速、修理屋さんに電話して、ともに喜びあいました。
お客様のお手伝いが出来て、カメラ屋冥利に尽きる出来事でした。