おバカ社員奮闘記 地区長編⑤

「チェーンオペレーション」を壊すバカ地区長

西友出身のS社長は「チェーンオペレーション」という売場づくりを当社に持ち込みました。
元々は西友で行われたもので、簡単に言うと「どこの店でも同じ商品を同じ位置に同じ個数を
陳列する」というものです。そうすることで誰が担当者でも同じ売場が出来、在庫管理も楽に
なります。しかしそんな売場は没個性で担当者が頭を使った工夫など必要なくなります。
けれどそれこそ経営者の狙いで、はっきり言えば「どんなバカでも務まる売場」です。


これは「お客様に楽しんでもらう売場づくり」という私の考えとは正反対です。当地区では
他の地区ではほとんど扱わない時計、電卓、その他雑貨が並んでいます。改装でミニラボを
導入する際、本社から図面が送られてきます。レイアウト図面というのですが、販売部門を
統括するK役員が商品部のバイヤーと相談して図面を引きます。K役員は当地区の事情を知っていて
、私の方から「時計や電卓を入れてください」と事前に言っているので、申し訳程度の個別
商品を入れてくれます。
私は図面が届くと時計などのスペースを大きく取った内容に書き換えて本社に送り返していました。

経営者が推進する「チェーンオペレーション」に現場の一地区長が逆らうわけです。
K役員からは何も言われませんでしたが、常に私を敵視して社長にご注進するT商品部長などはらわたが煮えくり返る思いだったと想像されます。

私は「売上さえ上げればいいんだ」「予算を達成すればいいんだ」「利益をきちんと出せばいいんだ」と誰が何と言おうと全く気にしませんでした。
社長がいう「成果主義」を一番実現しているのは自分なんだ、と思って
いました。天狗にならないようにいつも自省しているつもりが、天狗そのものになっていたようです。

西友都賀店で全館大改装が行われることになりました。一か月も休業しての全面改装です。店長に
ミニラボ導入の許可をもらい、売場も西友のサービスカウンターと並ぶ1階入口中央に移動することに
なりました。私は西友カラーの青い天吊り看板に「D・P・E 時計コーナー」と入れてもらいました。
什器も新調され、K役員設計の写真見本ボードが前面になるグレーのオリジナルカウンターが入りました。
これを機にカメラの販売からは完全に撤退しました。ミニラボに絶対必要な水道シンクも設置されました。
物販の棚什器は6台で、アルバム、フレームは最小限に、フィルム、ビデオテープは本部の指示に
従いましたが、腕時計、目覚まし時計、時計バンド、電卓といった商品にできるだけスペースを
使いました。商品陳列はすべて私ひとりで行い、チーフのFさんと売場スタッフはミニラボの習得に
専念してもらいました。この改装期間中の日に、なんとセゾングループの総帥、Tオーナーが視察に
来店されました。西友事務所に飾ってある肖像写真で毎日のように見るTオーナー本人が西友役員、
販売部長、店長など10人以上に案内されながら、当売場に向かって歩いてきました。するとTオーナーが
私の作っている売場の前で足を止めました。私は深々と礼をしました。うちの売場について数秒、
お付きの人が説明して、ささ、こちらへ、とまるで西友フォートの売場を見せたくないように、
お付きの人達が誘導して行ってしまいました。私は15年間、この会社に勤めましたが、Tオーナーに
会ったのは後にも先にもこの一度だけです。作家・詩人としても著名なT氏は風格がありました。

新装オープン記念セールは本社スタッフの応援も得て大成功して終了しました。新検見川店、
北習志野店で私の前任者だったベテランのFさんは「給料分しか働かない」と周囲から言われている人物
でしたが、ミニラボ導入に伴い張り切って仕事をしてくれました。ところが新装後3か月、本社で西友から
転籍してきたK部長に「F,抜くからな」と告げられました。茨城県の新店舗に異動させるというのです。
「後任はだれですか?」「そんなもんいねーよ!」K部長は順調に売上を伸ばしている都賀店を正社員チーフ
のいないパート店舗にするというのです。当然、私は強く抗議しましたが聞いてもらえませんでした。
またひとつパート店舗が増えて私の負担は増していきました。

理想の売り場を目指して

私が事務所を置き、拠点とする西千葉店も改装に伴いミニラボが導入されることになりました。
Y店長は心よく協力してくれ、課題の水道シンクもエスカレーター下、売場の向かいに設置されることになりました。
西千葉店は西友の小改装ということもあり、売場には新しい什器は入りませんでした。しかしそれは私にとって望むところでした。新しいカウンターは前面が見本写真になり、商品の陳列はできない設計でした。古いカウンターは棚になっていて商品が並べられました。ミニラボが置いてあり、会社の全店統一の「写真すぐできます」というだけの売場では、取次の時と同様、写真目的のお客様しか足を止めません。私の理想とする「楽しい売場」を実現するには様々な商品が必要です。私はミニラボ導入の売り場改装を機に目指す「楽しい売場」を作ることにしました。

売場のレイアウト図面はK役員と連絡を取り合い作りました。商品ではカウンターに格安の目覚まし時計と置時計を並べました。ミニラボの作業スペースのまわりにネットパーティーションを設置して、ついで買いがしやすい価格の腕時計をビッシリ吊るしました。電卓も1000円以下で買える商品を中心に陳列し、ほかにもストップウォッチや万歩計などを陳列しました。
アルバムは定番品を背面の棚什器に置き、特価品、セール品は売場前の島什器にビデオテープとともに山積みしました。サービスでは腕時計電池交換、バンド交換を実施し、学生さんが多く来店する店ということで、
セルフコピー機を3台並べました。内装はK役員自ら来店し、フ

ィルムを模した黒ボードに「写真すぐできます」「D・P・E 時計コーナー」のカッティングシートを貼り、現在の時間と写真仕上がり時間を表示する大時計を取り付けました。
こうして私の理想とする「楽しい売場」がほぼ完成しました。目標予算の月商500万は初月から楽々クリアして、定期的に行う催事と合わせて月商800万の売上を作る売場になりました。
Y店長、S係長もとても喜んでくれました。元の月商は150万だったのですから。